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広島地方裁判所 昭和41年(行ウ)10号 判決

広島市吉島本町四〇九番地の一

原告

株式会社日本プレス製作所

右代表者代表取締役

篠田功

右訴訟代理人弁護士

樋口芳包

広島市加古町九番一号

被告

広島西税務署長

土崎倫

右指定代理人

小川英長

堀田泰宏

三宅正行

岸田雄三

常本一三

石田金之助

吉富正輝

伊藤教清

広光喜久蔵

右当事者間の法人税額等の更正および加算税の賦課決定裁決取消請求事件について当裁判所は次のとおり決判する。

主文

被告が原告に対し昭和四〇年六月二九日付をもつてなした原告の自昭和三七年一〇月一日至昭和三八年九月三〇日事業年度分法人税の更正処分につき更正所得金額二六、九二六、九六五円のうち二六、八七二、五〇八円を超える部分および同日付過少申告加算税賦課決定のうち右超過部分に対応する部分を各取り消す。

被告が原告に対し同日付でなした原告の自昭和三八年一〇月一日至昭和三九年九月三〇日 事業年度分法人税の更正処分につき、更正所得金額一七、二九三、三一〇円のうち一七、一七四、五六八円を超える部分および同日付過少申告加算税賦課決定のうち右超過部分に対応する部分を各取り消す。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の求める判決)

第一、原告

被告が原告に対し昭和四〇年六月二九日付をもつてなした原告の自昭和三七年一〇月一日至昭和三八年九月三〇日事業年度分法人税の更正処分につき更正所得金額二六、九二六、九六五円のうち二一、八二九、八三三円を超える部分および同日付過少申告加算税八三、〇〇〇円の賦課決定を各取り消す。

被告が原告に対し同日付でなした原告の自昭和三八年一〇月一日至昭和三九年九月三〇日事業年度分法人税の更正処分につき、更正所得金額一七、二九三、三一〇円のうち一六、六九四、五六八円を超える部分および同日付過少申告加算税七、〇五〇円の賦課決定は各取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二、被告

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(請求の原因)

第一、原告は、クリーニング用機械器具の製造を営む法人である。

第二、被告は、原告の自昭和三七年一〇月一日至昭和三八年九月三〇日事業年度(以下「昭和三十七事業年度」という)および自昭和三八年一〇月一日至昭和三九年九月三〇日事業年度(以下「昭和三八年事業年度」という)の各法人税の確定申告に対し、いずれも昭和四〇年六月二九日付をもつて、昭和三七事業年度については所得金額を二六、九二六、九六五円とする増額更正処分および過少申告加算税八三、〇〇〇円の賦課決定を、昭和三八事業年度については所得金額を一七、二九三三一〇円とする増額更正処分および過少申告加算税七、〇五〇円の賦課決定をそれぞれなし、同年七月一日原告に通知した。

そこで、原告は同月三一日広島国税局長に対し各審査請求をしたが、同局長は昭和四一年二月二六日付でこれらをいずれも棄却し同年三月五日原告にその旨通知した。

第三、しかし、右各更正処分には次の如き違法がある。

一  昭和三七事業年度分について。

(一) 右事業年度分の更正処分中所得加算部分は、次の金額を各記載の事由にもとづき所得金額として加算するというものである。

(1) 不動産低額譲渡 四、四三六、〇〇〇円

原告は昭和三八年八月、広島市吉島本町五〇一番地の七所在の建物(工場一棟ほか付属建物四棟)を代表取締役篠田功(個人)に対し、二、九九四、五〇〇円で売却しているが、右建物の適正価額は七、四三〇、五〇〇円であつて、不当に低額な譲渡をしたものであるから、その差額を原告の益金として計上する。

(2) 認定利息 一八一、一三二円

原告は、右篠田功に対する仮払金につき、日歩一銭九厘の割合による利息を計上し、または利息の計上をしていないが、原告は金融機関等からの借入金については平均日歩二銭三厘以上の利息を支払つているので、右仮払金につき日歩二銭三厘の割合により算出した金額と原告計上額との差額を益金として計上する。

(3) 過大報酬 四八〇、〇〇〇円

原告は、監査役篠田弘子に対する報酬を月額五〇、〇〇〇円として支払いをしているが、このうち一〇、〇〇〇円を超える金額を過大報酬として損金算入を否認する。

(4) 右以外の事由によるもの 五八、六七四円

合計 五、一五五、八〇六円

(二) しかしながら、右のうち(1)ないし(3)の各項の金額は次の理由により所得として加算計上されるべきものではない。即ち、

(1) 不動産低額譲渡 四、四三六、〇〇〇円について

本件建物の篠田功への譲渡価額は被告主張のとおり二、九九四、五〇〇円であるが、右建物は以前原告会社の工場、事務所として使用していたところ、狭隘となり広島県安佐郡可部町に工場、事務所を新設したが本件建物の敷地が篠田功の所有であるため、建物のみを売却することが困難であり、さりとて手放さないと地代、固定資産税等不経済な費用を要し、また仮りに他に売却するとしても建物のみであると著るしく低い売価になることが予想され、結局敷地所有者である篠田功に対し適正な価額で売却することが、原告会社にとつて最善の方法と考えられたので、当時の現況における建物の時価を業者に評価させ、その評価額をもつて右譲渡をしたものである。したがつて、右譲渡価額は適正なものであり、低額譲渡として否認さるべき理由はない。

(2) 認定利息 一八一、一三二円について

篠田功に対する仮払金につき日歩一銭九厘の割合による利息を計上していることは事実であるが、原告の本事業年度における金融機関等からの借入金の利率は短期借入金で日歩一銭五厘ないし二銭三厘、長期借入金では不動産銀行からの借入金の日歩二銭九厘をのぞくと、日歩二銭三厘か二銭四厘と種々である。そして金利は借入時の諸般の状況即ち金融機関の性格、資金の使途および金額の多寡、担保の有無等により高低があるのであらゆる借入金の平均利率を算出し、これを基準にして日歩一銭九厘の利率を低率であるとし、その差額を益金に計上することは不当である。

しかも、原告の金融機関からの借入金の担保には篠田功の個人財産の多くが提供されており、仮払金の使途は、会社設立前の個人事業に対する所得税の納付等であるのではなおさらである。

(3) 過大報酬 四八〇、〇〇〇円について

篠田弘子は、商法上の地位、名称は監査役であるが現実には原告会社の業務に従事し責任のある仕事をしていたのである。それ故月額五〇、〇〇〇円の報酬を受けるのは妥当であり、過大報酬とされるべきものではない。なお、被告は弘子の報酬を月額一〇、〇〇〇円が相当であるとするがその根拠に乏しい。

((1)ないし(3)の合計額五、〇九七、一三二円の所得加算は失当である。)

二、昭和三八事業年度分について

(一) 右事業年度分の更正処分中所得加算部分は前事業年度分と同様にして次の金額を各記載の事由にもとづき所得金額として加算するというものである。

(1) 認定利息 一一八、七四二円

原告は、篠田功に対する仮払金につき、日歩一銭九厘の割合による利息を計上しているので、前記一の(一)の(2)記載と同じ理由から日歩二銭三厘の割合により算出した金額との差額を益金として計上する。

(2) 過大報酬 四八〇、〇〇〇円

前記一の(一)の(3)記載のとおり。

(3) 右以外の事由によるもの 五二七、七四〇円

合計 一、一二六、四八二円

(二) しかしながら、右のうち(1)については前記一の(二)の(2)と、また(2)については前記一の(二)の(3)とそれぞれ同じ理由により所得として加算されるべきものではなく(1)(2)の合計額五九八、七四二円の所得加算は失当である。

第四、以上のとおり被告のなした前記各更正処分には右各部分について違法があり、したがつて、各過少申告加算税賦課決定にも違法があることになるから、頭書記載の各取消判決を求める。

(被告の認否および主張)

第一、請求原因に対する認否

一、請求原因第一項、第二項記載の事実は認める。

二、同第三項の一、二記載の事実中各(一)記載の事実は認めるが、各(二)記載の事実は争う。

第二、被告の主張

被告が原告の主張する各項の所得金額を加算したのは、原告は旧法人税法七条の二の同族会社であるので、同法三〇条一項の規定を適用し、それぞれ次の理由にもとづき原告会社の行為計算の否認をしたことによるもので適法である。

一、自昭和三七年一〇月一日 至昭和三八年九月三〇日 事業年度について。

(1) 不動産低額譲渡にもとづく四、四三六、〇〇〇円の益金計上について。

(イ) 一般に会社がその役員に対し資産を譲渡した場合においてその譲渡価額が時価相当額に比し不当に低額である場合においては、当該譲渡価額と時価相当額との差額は、該役員に対し賞与を支払つたのと同一の実質を有するから、右差額は会社の益金として計上するのが相当である。ところで、本件建物の原告から篠田功への譲渡価額は二、九九四、五〇〇円であるが、その時価は後記の如く七、四三〇、五〇〇円と認められるので、被告は、右の差額四、四三六、〇〇〇円を原告会社の益金として計上した。

(ロ) 被告が本件建物の時価を七、四三〇、五〇〇円と算定したのは次の理由にもとづくものである。即ち篠田功は本件建物を昭和三九年九月二二日その敷地とともにパブリカ広島株式会社に対し価額二二、五〇〇、〇〇〇円で売却しているが、右敷地は四三六坪であり、当時の該敷地付近の地価は坪当り三五、〇〇〇円と認められるので、右坪数に三五、〇〇〇円を乗じて得た一五、二六〇、〇〇〇円が右土地の価額と認められる。

よつて、二二、五〇〇、〇〇〇円から右一五、二六〇、〇〇〇円を減じた七、二四〇、〇〇〇円に減価償却費一九〇、五六五円(自三八、八 至三八、一二 六四、八〇三円、自三九、一 至三九、一〇 一二五、七六二円)を加算した七、四三〇、五〇〇円をもつて本件建物の時価としたものである。

(ハ) 右時価の算定が適正であることは、

〈1〉 昭和三八年八月における原告会社の本件建物の帳簿上の価額が八、八三七、八四七円であること。

〈2〉 本件建物は昭和三四年一二月の建築にかかり、その建設価額は八、九三二、〇〇〇円で、その後昭和三五年から昭和三六年にかけて一、二一三、〇〇〇円の改造又は拡張工事を行つており、本件建物に加えられた建築改造の費用は、優に一、〇〇〇万円を超えていること。

〈3〉 本件建物について、広島市の昭和三九年分の固定資産評価額(地方税法上の基準年度の価格、以下同じ)は六、五五二、三〇〇円であること。

〈4〉 篠田功からパブリカ広島株式会社への所有権移転登記の際の本件建物の不動産価格の表示は六、八九八、一〇〇円であること。

等からも裏付けられる。

(ニ) また、本件建物は篠田功からの借地上にあり、昭和三七年において、原告は地主である篠田功に対し借地料四三、〇〇〇円を支払つている。従つて、本件敷地の使用については賃貸借契約があり、原告は借地権を有していたものである。借地に対する借地権の割合(価格)は地域によつて異なるが、公表された相続税財産評価基準では本件敷地の地域は地価の三割とされている。

宅地の価格推移指数を使用して計算すると、原告が本件建物を譲渡した昭和三八年八月の本件土地(更地)の時価は坪当り三〇、二〇〇円となるので、本件借地権相当額は三、九五〇、〇〇〇円(30,200円×436×0.3)である。

そして建物の譲渡価額は、建物自体の価額に借地権相当額を加えたものとみるべきものである。

そうすると、本件建物の時価は、建物自体の価額七、四三〇、五〇〇円に右借地権の価額を加えた一一、三八〇、五〇〇円となるべきものである。そして被告は建物の価額を右範囲内で七、四三〇、五〇〇円と認定したのであるから正当である。

(2) 仮払金の認定利息 一八一、一三二円の益金計上について。

原告は、代表取締役篠田功に対する仮払金(別表1)について、別表1の(1)記載の部分については、ほぼ日歩一銭九厘の割合による一四一、五四二円の利息(右仮払金につき日歩一銭九厘の割合による正確な利息金額を計算すると同表(1)の利率一銭九厘欄記載のとおりとなる。)を計上し、一方同表(2)記載の部分(役員前貸金)については利息を計上していない。

しかし、原告の金融機関からの借入金の利息は、平均日歩二銭三厘以上を払つている。よつて右仮払金について、日歩二銭三厘の割合で利息計算した金額(別表1の(1)、(2)の二銭三厘欄記載のとおり)の合計三二二、六七四円から原告の前記計上額を控除した差額(一八一、一三二円)を益金に加算するものである。

(3) 過大報酬四八〇、〇〇〇円の損金算入否認について。

原告の非常勤監査役篠田弘子は、原告の代表取締役篠田功の妻であり、昭和三四年六月出産した後は会社事務に関与せず専ら家庭の主婦として篠田功の相談に応ずる程度のものであるが、同女の過去の実績も考えて類似法人の例(女性である非常勤監査役)により一〇、〇〇〇円の限度での報酬の計上を認め、これを超える分即ち月額四〇、〇〇〇円宛の損金算入を否認したものである。

二、自昭和三八年一〇月一日 至昭和三九年九月三〇日事業年度について。

(1) 仮払金の認定利息一一八、七四二円の益金計上について。

原告は、篠田功に対する仮払金(別表2)につき日歩一銭九厘の割合による利息合計六二一、五二六円を計上しているが、前記一の(2)と同じ理由により、日歩二銭三厘の割合で算出した利息額合計七四〇、二六八円と右計上額との差額(一一八、七四二円)を益金に加算するものである。

(2) 過大報酬四八〇、〇〇〇円の損金算入否認について。

前記一の(3)と同じ理由である。

以上のとおりであつて、被告の各処分につき原告主張の違法はない。

(被告の主張に対する原告の認否および反論)

第一、認否

1  原告が同族会社であること、篠田功が昭和三九年九月本件建物をその敷地とともにパブリカ広島株式会社に対し二、二五〇万円で売渡したこと。

2  昭和三七事業年度の篠田功に対する仮払金につき、別表1の(1)の部分につき一四一、五四二円の利息を計上していること、右部分の仮払金に対する一銭九厘あるいは二銭三厘の割合による利息額が同表(1)の一銭九厘の欄あるいは二銭三厘の欄記載のとおりとなること。

3  昭和三八事業年度の篠田功に対する仮払金が別表2記載のとおりで、日歩一銭九厘の割合による利息六二一、五二六円を計上していること、右仮払金に対する日歩二銭三厘の割合による利息の合計額が七四〇、二六八円となること。

4  右両事業年度の原告の金融機関等からの借入金の平均利率が日歩二銭三厘余となること。

右1ないし4の事実はいずれも認める。

第二、不動産低額譲渡についての原告の反論

1  被告は、本件建物の時価算出基準として、パブリカ広島株式会社への譲渡価額を基礎としているが、右譲渡は原告から篠田への譲渡と時点を異にしているのでこれを基準とするのは不当である。

2  時価算出につき、土地代金を坪当り三五、〇〇〇円と計算しているがその根拠は薄弱である。また、建物価額の算出につき、土地、建物の一括売買価額から土地価額を控除した価額を建物の価額としているが、この算出方法は根拠に乏しく不当である。

(証拠関係)

原告訴訟代理人は、甲第一ないし第九号証、第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一ないし三を提出し、証人宇山茂の証言を援用し、乙第一ないし第四号証、第七、八号証、第一〇、一一号証、第一三号証の成立はいずれも認める、第五、六号証、第九号証、第一二号証の成立は各不知と述べ、

被告指定代理人は、乙第一ないし第一三号証を提出し、証人竹中省三、同松田仁作、同矢吹重季の各証言を援用し、甲第一ないし第八号証、第一〇号証の一ないし六の成立はいずれも認める、第一一号証の一ないし三については原本の存在および成立を認める、第九号証の成立は不知と述べた。

理由

一、請求原因第一、二項の事実および同第三項の一、二の各(一)の事実は当事者間に争いがない。

そこで以下、順次被告の否認した項目について、原告の主張にもとづいて検討する。

二、昭和三七事業年度について

1  不動産低額譲渡にもとづく四、四三六、〇〇〇円の益金計上について。

(1)  原告会社が、昭和三八年八月本件建物を原告会社の代表取締役篠田功に対し、二、九九四、五〇〇円で売却したこと、右篠田は、昭和三九年九月該建物をその敷地(弁論の全趣旨および成立に争いない乙第二号証により四三六坪と認められる)とともにパブリカ広島株式会社に対し、二二、五〇〇、〇〇〇円で譲渡したこと、右敷地は従前から篠田功の所有であつたことは当事者間に争いがない。

(2)  そこで、まず昭和三九年九月篠田功がパブリカ広島株式会社へ譲渡した時点における本件建物の価額について検討する。成立に争いがない乙第一、二号証、第一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第五号証、証人松田仁作の証言および同証言により真正に成立したと認められる乙第九号証を総合すると、昭和三九年当時における右土地周辺一帯の地価(更地価額)は坪当り三〇、〇〇〇円ないし三五、〇〇〇円であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、原告に有利な坪当り三五、〇〇〇円の単価にしたがい、これに四三六(坪)を乗じて右土地の価額(更地)を求めると一五、二六〇、〇〇〇円となる。そして前記売買価額二二、五〇〇、〇〇〇円から右土地代金分一五、二六〇、〇〇〇円を差し引いた七、二四〇、〇〇〇円が昭和三九年売買当時における本件建物自体の価額(後記借地権の価額を考慮しない価額)と認められる。

(3)  次に原告会社から篠田功に譲渡した昭和三八年八月当時における本件建物自体の価額についてみるに、篠田功が原告会社から本件建物を譲り受けた後、これにつき減価償却した額が一九〇、五六五円(自昭和三八、八 至〃 三八、一二 六四、八〇三円・自昭和三九、一 至〃 三九、一〇 一二五、七六二円)であることは原告において明らかに争わないから自白したものとみなすべく、そうすると前記七、二四〇、〇〇〇円に右償却額を加算した約七、四三〇、五〇〇円が、篠田が譲り受けた当時における本件建物自体の価額と認められる。

(正確には、昭和三八年八月から昭和三九年までの間の物価上昇にもとづく価額の増額分を右建物自体の価額から減ずべきであるが、この点はしばらくおく)。

(4)  ところで、篠田功が本件建物の敷地の所有者であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第七、八号証によれば、原告会社は、建物所有に伴い同人に年額四三〇、〇〇〇円の借地料を支払つていたことが認められ、原告が右土地につき借地権を有していたことは明らかである。

次に、証人松田仁作の証言および同証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証によれば、右土地付近一帯の借地権の価額は、少なくとも地価(更地価額)の三割であると認められ、これに反する証拠はない。そして弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六号証によれば全国の中都市における宅地価額推移指数は昭和三八年八月が五五八、昭和三九年九月が六四六となるので、これによつて本件土地の昭和三八年八月当時の時価(更地価額)を求めると、坪当り三〇、二〇〇円(35,000円×558/646、一〇円以下切捨て)となり、当時の本件土地についての借地権の価額は三、九五〇、一六〇円(30,200円×436×0.3)と評価される。

そして、通常、借地上に存する建物の取引価額は、建物自体の価額のほかに、借地権の価額を加えたものとするのが相当であり、前示建物自体の価額七、四三〇、五〇〇円に右借地権価額三、九五〇、一六〇円を加えた一一、三八〇、六六〇円が本件建物の昭和三八年八月当時における適正な譲渡価額といわねばならない。そうすると前記の建物自体の価額七、四三〇、五〇〇円から物価上昇による評価額の増額分を減ずることを考慮しても、なお本件建物の時価(借地権を含めた)は七、四三〇、五〇〇円をはるかに超えることが明らかである。したがつて、被告が本件建物の時価を七、四三〇、五〇〇円と判定したのは、適正な措置である。

(5)  なお、成立に争いがない乙第一〇号証によれば本件建物の昭和三九年度固定資産評価額が六、五五二、三〇〇円であること、成立に争いない乙第一一、第一三号証によれば昭和三九年一〇月の売買当事者間の所有権移転登記申請の右建物の売買価額が六、八九八、一〇〇円とされていること、がそれぞれ認められるので、被告の右措置が適正であることを裏付けるものである。

(6)  甲第九号証および証人宇山茂の証言は、本件建物の評価額を二、九九四、五〇〇円であるとするが、右評価は建物がかなり腐蝕していることを前提とし、かつ評価の根拠もあいまいであり、本件建物が腐蝕していなかつた旨の証人竹中省三、同矢吹重季孝の各証言等に照らし信用しがたい。

(7)  以上によれば、本件建物の原告会社から篠田功への譲渡価額(二、九九四、五〇〇円)は、前記適正価額七、四三〇、五〇〇円に比較し不当に低額であるといわざるを得ないから、その差額四、四三六、〇〇〇円は、その実質は利益処分としての役員賞与の性質を有するものと解するのが相当である。したがつて旧法人税法三〇条一項にもとづき右行為、計算を否認し差額を益金として計上した被告の処分には、原告の主張する違法は存しない。

2  認定利息一八一、一三二円の益金計上について。

(1)  原告が代表取締役篠田功に対する仮払金につき別表1の(1)の部分については、日歩一銭九厘余の利率による利息一四一、五四二円を計上していること、同表(2)の部分については利息の計上をしていないこと、原告の金融機関等からの借入金の利率が平均日歩二銭三厘余となることは当事者間に争いがない。

(2)  右によれば、篠田功は原告が金融機関等から借り入れた資金の利率の平均より約四厘低率の金利で、原告から別表1の(1)の仮払金の貸付けをうけたことになる。

しかしながら、成立に争いがない甲第一〇号証の一ないし四および弁論の全趣旨によれば、原告の金融機関等からの借入金の利率は、たしかに、平均すると日歩二銭三厘余であるが、日歩一銭五厘、同一銭八厘、同二銭一厘等低利のものも認められるので、篠田功に対する貸付けが果していずれの借入金をもつてされたか否かは、にわかに確知し難いところである。

そうすると、原告が前記の篠田功に対する仮払金につき日歩一銭九厘の利率で利息を計上している部分については、借入金の平均利率との差が僅か四厘にすぎず、右利率による利息の計上をもつて直ちに法人税の負担を不当に減少させるものと非難するのは相当でない。したがつて右部分について旧法人税法三〇条一項により計算否認をすべき場合には当らないと解するのが相当であり、被告の二七、七八八円(一六九、三三〇円と一四一、五四二円の差額)の否認は失当である。

(3)  次に利息の計上のない別表1の(2)の部分については、右条項にもとづき認定利息の益金計上をしなければ法人税の負担を不当に減少させる結果となるので原告の措置は不当であるが、右の如く低利の借入金もあること、原告が計上している仮払金の利息の利率が約日歩一銭九厘であり、前述の如くこれは不当に低利であるとして否認すべき場合には当らないことを考慮し、認定利息として計上すべき金額は日歩一銭九厘の割合により計算した額をもつて相当とすべきである。

そこで、別表1の(2)の部分の仮払金(役員前貸金)について日歩一銭九厘の利率により利息を算出すると、同表(2)の一銭九厘の欄記載のとおりとなる。

そうすると、別表1の(2)の部分につき被告の認定した日歩二銭三厘の利率による利息合計一五三、三四四円のうち、日歩一銭九厘の利率により計算した右利息の計一二六、六七五円を超える部分の認定利息計上は許されないものといわなければならない。

(4)  よつて、認定利息一八一、一三二円の計上は、結局右一二六、六七五円を超える部分につき、違法として取消しを免れない。

3  過大報酬四八〇、〇〇〇円の損金算入否認について。

原告会社が、監査役篠田弘子に対し月額五〇、〇〇〇円の役員報酬を支給していることは当事者間に争いがない。

そこで同人の監査役としての職務の実態についてみるに、原本の存在および成立に争いのない甲第一一号証の三によれば、同人は原告会社代表取締役篠田功の妻(昭和三三年婚姻)であつて、昭和三七年に監査役に就任して以来、家庭における日常の家事および育児のことに専念しており、原告会社の平常の業務には従事せず、いわゆる非常勤監査役であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、成立に争いがない乙第三、四号証によれば、広島市所在の造船業を営む同族会社たる株式会社(資本金三〇〇万円のもの)において、代表者の妻たる常勤監査役(会社の日常庶務に従事)に対し、昭和三七年一月から昭和三八年一一月まで月額八、〇〇〇円ないし八、五〇〇円の報酬を、昭和三八年一二月以降は月額一五、〇〇〇円の報酬を支給していること、広島県安芸郡船越町所在の各種機械製造業を営む同族会社たる有限会社(資本金一〇〇万円のもの)において、代表者の妻たる非常勤監査役に対し、昭和三七年八月から昭和三九年七月まで月額一〇、〇〇〇円の報酬を支給していることがそれぞれ認められ、これに反する証拠はない。

そして、会社代表者の妻を監査役とするようなことは、規模の大きくない同族会社の特質に由来するものであり、しかも一主婦が監査役に就任しても、それが果す役割は通常の場合、有名無実に近いものといわざるを得ない。これを本件の場合についてみても同様であり、前示の篠田弘子の職務の状況や、甲第一一号証の三によつても、篠田弘子が監査役としてその任務を十分遂行しえたとは、とうてい認めがたく(甲第一、二号証の決算報告書への監査役としての同人の記名捺印の存在も右結論を左右しない)同人の報酬月額五〇、〇〇〇円は不当に多額であり、これをそのまま認めると法人税の負担を不当に減少させる結果となるものといわざるを得ない。

そして成立に争いない甲第一、二号証により認められる原告会社の規模、前示の弘子の職務の実態に前記二事例を比較検討すると篠田弘子の報酬は月額一〇、〇〇〇円が相当であり、従つてその範囲内で損金算入を認めるのが相当である。よつて被告が旧法人税法三〇条一項にもとづいてなした月額一〇、〇〇〇円を超える部分についての損金算入否認の処分に所論の違法はない。

二、昭和三八事業年度について。

1  仮払金の認定利息一一八、七四二円の益金計上について。

(1)  原告が篠田功に対する仮払金(別表2)につき日歩一銭九厘の利率による合計六二一、五二六円の利息を計上していること、原告の金融機関等からの借入金の利率が平均日歩二銭三厘となることは当事者間に争いがない。

(2)  そうすると、前記一の2と(2)と同じ理由により、被告の日歩二銭三厘を基準とする本項の認定利息の計上(否認額一一八、七四二円)は違法であり取消しを免れない。

2  過大報酬月八〇、〇〇〇円の損金算入否認について。

前記一の3記載と同じ理由で被告の処分には違法はない。

四、以上検討したところによれば、原告の請求は昭和三七事業年度の更正処分等については、更正所得金額二六、九二六、九六五円のうち、認定利息に関する五四、四五七円の部分すなわち二六、八七二、五〇八円を超える部分および右部分に対応する過少申告加算税賦課決定の取消を求める範囲内で、昭和三八事業年度の更正処分等については、更正所得金額一七、二九三、三一〇円のうち、認定利息に関する一一八、七四二円の部分すなわち一七、一七四、五六八円を超える部分および右部分に対応する過少申告加算税賦課決定の取消を求める範囲内で、いずれも理由があるから右の限度で本訴請求を認容するが、その余の請求はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但し書を各適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 塩崎勤 裁判官 木村要)

別表1

仮払金に対する利息の明細

(37,10.1 38.9.30)

(1)

〈省略〉

(2)(役員前貸金)

〈省略〉

別表2

仮払金に対する利息の明細

(38.10.1 39.9.30)

(役員前貸金)

〈省略〉

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